夜明け


 真っ黒なアスファルトで舗装された道路は夜の闇に拍車をかけるだけの存在で、これならまだ砂利の方が断然良かった。
 此処に街路樹は無い。彼はこの世界にある月の明かりだけを頼りに道を進んた。
 延々と続く真っ直ぐな道。横道も無く、ただただ真っ直ぐで。
 延々と続く同じ景色。木も、道も、何もかもが。同じ所をずっと歩かされていて実は前に進んでいないのではないだろうかという錯覚を起こしてしまいそうだ。否、本当にそうなのかもしれない。果てがあることを知らないかのようなこの道に、段々疲れを感じた。

「あー・・・・・何やってんだ俺」
 誰に言うわけでもなく独り呟いた。気付いたらこの世界に居ただけで此処が何処だかなんて判らないし、どうしてこんな世界に自分だけしか居ないのかもさっぱり見当がつかないし、どうしてこんな道をひたすら進んでいるのかもわからなかった。
 自分の独り言が遠くに消えていく感覚が妙に虚しくて、声なんて出さなきゃ良かったなんて思った。

 ポケットに手を突っ込んで煙草とライターを出した。煙草の箱を開け、思わず「・・あ」と言った。・・・・煙草がもうない。
 空の箱を道端に捨て、ライターをポケットに戻した。




 どれくらい歩いただろう。朝も来なければ、道の果ても来ない。月と木と舗装された道路と自分しかない非現実的な世界。腕に付けていた時計はとっくの昔に壊れていて針は十秒程度で一分を刻んでいた。
 そういえば、お腹も空かなければ喉の渇きもない。お手洗いに行きたいとも思わない(もっとも、そういう衝動が起きても食べるものも飲むものも無いし、トイレすらないのでそれはあり難いことなのだが)。
「誰かもう一人居てくれれば・・・」
 ただ独りはあまりにも堪えた。こんな抑揚のない世界にただ独りは。
 朝も来なくていい。道の果ても来なくていい。だから、だから誰か傍に来てほしい。独りは嫌だ。いつかどうにかなってしまいそうだ。

 もう歩くのも嫌になってその場にしゃがみ込み頭を抱えた。
「あー・・・何だって俺」
 通算何回目かになる言葉。俺はこんなにも弱かったのか。
 膝に顔を埋めて「う゛ー・・・」と唸った。俺が一体何したってんだよ。何で俺一人がこんな変な世界に・・・。成績もさほど悪くないし校則だってちゃんと守ってる。悪い事は何一つしてない筈――・・・
 そんな答えの出ない質問を自身に投げかけていた時、左肩に何かの感触を感じた。何かと思って其を見ると、半透明の若さを失ったしわしわの手だった。
 ゆっくりと顔を上げ、上目遣いにそれを見た。
「・・・・・・じいちゃん」
「もう少し頑張って前に進んではみないか。お前には未だ先がある。未来があるんじゃから」
「何わけわかんないこと言って・・・・・」
 バッと立ち上がると、先刻までそこに居た筈の人が居なくなっていた。
 ・・・そうだよな、居るわけがない。じいちゃんはもう死んだんだ。そうだ。死んだ後までじいちゃんに心配かけちゃいけねえよな。


 彼はよいしょと腰を上げ、再び歩き始めた。

 終わらないことなんてない。いつになるか分からないけれどこの道にも終わりはあるのだから、其処まで行こう。
 太陽だっていつになるか分からないけど昇ってくるだろう。



 彼は歩いている。先刻と同じように、先刻と変わらぬ風景の道を。
 けれど、先刻と違うところがある。





それは 彼の背中に徐々に優しい陽の光が差していること―――








fin



*あとがき*
半分は学校で考えた内容で、半分は家で考えました。
正直、どこら辺を「夜明け」っぽくしようかかなり迷った。実は、キーリの内容を少し参考にしています。言葉の使い方とか、言い回しとか、自分なりに。
言葉遣いはほんのりハーヴェイに似せたかった・・・









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