リセットボタン@


「あーあ、駄目だったか・・」
 目を瞑って全神経を脳へ集中させる。脳の奥の方にスイッチが視える。
 カチ。



「おはよー」
 霖奈が後ろから話し掛けてきた。
「おはよ。今日ってさ、何年何月何日?」
 突然月日を訊く私を少し訝しげな目で見ながら、けれどぱっと悩む素振りする。そして明るく笑いながら
「2001年4月18日だよ」
 と言った。
「そっかー、ありがと」
 丁度私が中学に入って1日経った・・・くらいか。

 私の脳内には人生をある場面からやり直すことのできる【リセットボタン】なるものが存在している。まあ、二頭身の青い猫型ロボットが世話をしている眼鏡をかけた少年の勉強机の引き出しと少し似ている。ただ、私のは一度スイッチを押してしまったらもう元に戻れることはない。過去を無かった事にし、そして無かった事にしたそれをまた築く。といった感じである。
 更に私のスイッチが無かった事に、所謂リセットできる範囲はスイッチを押した日から最高で7年と決まっていて、それを自分で決めてリセットすることができない。つまり、スイッチを押して、世界が変わるまでは何年リセットされたかわからないのだ。
 私が未熟な所為だろうが。
 取り敢えず、今回は3年ばかりリセットされたようだ。スイッチを押す前の私は2004年2月に居た。私の受験費やら何やらで親がもめて、離婚する云々と言い出したので説得をしていたのだが、結局離婚することになったのが嫌だったのでリセットしたのだ。
 折角リセットしたのだから、上手に生きて、2004年の私があのようにならないようにしよう。
 そんなことを一人で考えていたら、霖奈がポツリと何かを言ったので思考はそこで止まった。
「ぇ、ごめ、聞いてなかった・・」
「もうっ。あのね、今日は初めての授業だねって言ったの」
 霖奈はぷーっと頬を膨らまして冗談っぽい感じの可愛らしい顔で怒った。
「・・・そうだっけ?」
 もう3年も前のことなのでいちいち覚えてるわけがないので、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。その声が可笑しかったのか、霖奈はくすっと笑った。
「うん?そうだよ。1,2限は自己紹介とかで、3,4限は国語と社会。まっ、授業っつっても先生の自己紹介とか私たちの自己紹介で潰れちゃうと思うけど」
「そういえばそうだったかも・・・」
「・・・まさか、用意忘れちゃったとか?」
「や、持ってきたよ」
 多分だけど・・・。と口の中でもごもごと言ったのは多分霖奈には聞こえていないだろう。


 時折見かける新1年生らしき人達。男子はよくわからないけれど、女子はスカートが長い。みんなのスカートが「新1年生です」と言っているかのようだ。
 中学に入ってからの友達は当たり前だが私の前を他の子と喋りながら過ぎていく。この時は私と友達ではないので、本当に当然のことだけれど少し胸がちくりとする。
「まあいっか。また仲良くなればいいんだし、これにはもう慣れちゃったし」
 霖奈に聞こえない程度の声で呟き、一人納得する。

 そうやってるうちに学校に着いた。確か私と霖奈は9組だった気がする。
 ガラガラ・・・
 扉を開けて中に入る。教室にはウキウキドキドキした雰囲気が漂っている。


 ズキ・・・


 あれ・・・。何だろう。スイッチのあたりが物凄く痛い。今までリセット沢山してきたけど痛くなったことないんて無かった。ココが痛くなるなんてことも無かった(頭痛は多々あったが)。
 それに、胸騒ぎも。・・・何か悪い事が起こりそうな、そんな予感がする。

「HR始めるぞー」
 先生が入ってきた。懐かしい。相変わらず頭の髪は欠しいけれど、今に比べれば全然フサフサだ。
「昨日も言ったが、この9組の担任の丹田だ」
 はいはい、知ってますよ。
 ガガッ・・・・
 放送機から奇怪な音が漏れた。
 ピンポンパンポー・・・・ン
『教師と全校生徒に連絡します!』
 ぁ、数学の瀬川先生の声だ。どうしてこんなに慌ててるの?こんなこと、あったかな。
『皆さん!急いで避難してください!!校内に刃物を持った不審者が侵入しま・・・ッ・・・・ので・・・します!!』
 不審者・・?というか何でスピーカーの調子が悪そうなんだ。
「みんな、よく聞け!今放送で流れたとおり、慌てずに外へ避難するんだ!いいな」
 丹田先生がクラスの子全員に聞こえるように叫んでいる。ざわざわと話し声が聞こえた。何だろう、こんなことは無かったはず。
「ね、芹・・恐いよ・・・」
 腕を霖奈がぎゅっと握った。
「お願いだから、芹、行かないでね。芹は正義感とか好奇心とか強いから・・私、不安・・・・」
 泣き声に近い状態で、霖奈は更に強く腕を握る。顔を見ると霖奈はもう泣いていた。周りの人も皆恐怖で泣いている人が多い。霖奈は我慢していたが、周りも泣き出したのでとうとう嗚咽まじりなった。
 こんなことで泣かないで。そう言おうとして喉で止めた。小学校から上がったばかりで、先刻まで皆はしゃいでいたんだから、仕方ないのかもしれない。
 ごめん、霖奈。
「私、不審者を探してなだめてくるっ」
霖奈にしか聞こえない程度の声でそう言うと、霖奈の反応も見ずに私はその場から離れた。

 先刻まで摑まれていた腕に「行かないで」と言わんばかりに一瞬だけ力が入ったが、それを無理に振りほどいた私は、この時霖奈がどんな想いをしていたか知らなかった―――・・・・。














....To Be Continued.












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