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 既に誰も居なくなった廊下を走りながら辺りを見回す。運動神経はわりといいが、長距離が苦手な所為か息が少し上がってきた。
「探すと言ったはいいものの、何処にソイツが居るか知らないのを忘れてたっ・・・・」
 取り敢えず1階から順番に探すことにした。かなり時間はかかるが今の芹にはこれしかない。だが、意外にもあっさり不審者を発見した。
「・・・っ・・」
 呼吸を整えながらその場に立ち尽くす。だって在りえないんだもの。今時こんな不審者。
 身長はぱっと見170前後で普通体型。赤い帽子を被っていて無精髭が生えてる。上着は茶色とピンクのボーダーで(そんな服一体どこで買ったんだ)、足先だけ広く開いてるズボンを穿いている。手には刃渡りおよそ20cmの包丁を持っている。
 包丁はともかく、こんな格好でここまで来たのだろうか・・・。無精髭を生やしたおじさんがピンクの入った服を着て、尚且つ今風のズボンを穿いているだなんて目立ちすぎだろう・・。
「ちょ、ちょっと待ったぁー!!」
 兎に角、被害者を出さないためにも一刻も早くコイツをどうにかしなきゃ・・!
 芹の声が不審者の耳に届いたようで、不審者の視線がこちらに向けられた。ように見える。正確にどこを見ているか分からなかった。不審者は薬物乱用者なのか、目がヤバイ。しかも息もかなり荒い。今にもこっちに向かって走ってきそうだ。
 予想以上の不審者の形相に息を飲んだ。
 ・・・くそっ、もっとまともな不審者だと思ったのに!薬物使ってそうな相手だったら説得できないじゃない・・・!格闘なんて出来るかな・・。

 お互い向き合ったまま妙な沈黙が流れた。動くタイミングを見計らっているようだ。
 すると不審者はいきなりこっちに向かって走り出してきた。互いの距離はあっという間に縮まった。
「・・・っ!タイミングも何もないじゃない!!」
 不意をつかれて逃げるのが少し遅れ、髪を少し切られた。刹那、体勢を相手より早く立て直し、背中に蹴りを入れる。
「ぅあ゛っ!!」
 不審者が呻き声を上げて廊下に顔面からこけた。・・・弱い。
 まだ寝転がったまま悶絶しているので、はぁ・・と溜息をついて不審者に近寄った。手に持っている包丁を取ろうとしたその時、
「しまっ・・!」
 いきなり包丁を振られ、右腿をスカートと一緒に切りつけられた。廊下に鮮血が滴り落ちた。反射神経の良さが幸いし、傷はさほど深くはなかったが、傷の深さとは裏腹に痛みは酷い。あまりの痛さに一瞬目の前が暗くなり、その場によろけた。
 不審者は間を置かずに体勢を立て直して包丁を振り上げてきた。
「――――!」
 声にならない叫びをあげ、身を小さくて目をぎゅっと瞑った。けれど振り下ろされるはずの包丁が振り下ろされない。
「・・・?」
 恐る恐る目を開け、不審者を見上げる。ある一点を見て、硬直している。不審者の視線を追い、どこを見ているか確かめる。
 先刻切られた右腿を凝視していた。それほど深くはなかった傷からはまだ血は流れている。
「あ・・・・あ・・・」
 不審者がいきなりガタガタ震えだした。けれど包丁は手放さない。
 ――コイツ、血が駄目なのか・・?だったら包丁なんて使わずにスタンガンとかにすれば良かったのに。・・じゃなくて、兎に角今のうちだ!

 ガッ!!

 思いきり鳩尾(みぞおち)を殴る。「――!!」今度は不審者が声にならない叫び声をあげた。
 その場に倒れた不審者を見て、芹は呼吸を整えた。そんなに動いたわけではないが、緊張やその時その時の雰囲気が苦しかった。
 不審者を軽く揺すってみた。・・・今度は動かない。よし、包丁を取り上げて制服のリボンで手を縛ろう。そうすればもう安心だ。




「・・・芹っ・・・!!!」




 立ち上がった芹の背後から女の声がした。先生ではない、若い生徒の声。
 はっとして振り向くと、6メートルくらい向こう側に人がいる。芹はその場に立ち尽くしてしまった。

「・・・霖奈!どうして・・・・」















....To Be Continued.












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