最期の日

「うーさぎうさぎ 何見て跳ねる 十五夜お月様見て跳ーねーるー…」
小さな、自分にしか聞こえないくらいの大きさの声で唄った。ただ何となく、外の公園のベンチに座って月を見ていたら唄いたくなっただけ。
立ち上がって、近くのゴミ箱に飲み終えたコーヒーの缶を投げ捨てた。
カラン。と音をたてて缶はゴミ箱の中へ入った。

「こんな綺麗な月夜を、君と見られるだなんて僕は幸せ者だなぁ」
向こうの、こちら側からだと死角になっている辺りのベンチから男の声がした。
「・・・ありがとう」
嬉しそうな、相手を愛しむような女の声も聞こえた。
ゆっくりとそちらに目をやると、二つの人影がベンチで寄り添っていた。

・・・・莫迦だ。


溜息を吐いた。
帽子を被ったその人は、男にも女にもとれる体型で、夜の闇の中では性別が全くと言っていいほど、判らなかった。

帽子を被った人は、またベンチに座り込んだ。




◇◇◇

「策。こんなトコに居たのか」
名前を呼ばれてその人は振り向いた。
「――意斗。何で此処に・・・」
「何でじゃないよ。策、君は女の子なんだから。もっと自覚を持たないと」
意斗は少し怒っているようだ。それに、走ってきたのか、呼吸が荒い。
「女だなんて関係ないじゃない」
ふい、と私はそっぽを向いた。
「大体、意斗だってこんな時間に外を出歩くのはイケナイでしょう?」
「俺は男だし、第一俺のことは良いんだ。ほら、策、凍えてるじゃないか」
そう言って、意斗は私に自分の着ていた上着を策の肩に掛けた。私は意斗に言われて、自分が寒さに震えていることに気が付いた。

「どのくらい外に居たんだ?」
心配そうに顔を覗き込んでくる彼の顔が近くて、動悸が早くなるのを感じた。
「・・・・・・3時間・・くらい」
高鳴りを抑えながら、少しだけ考えて答えた。意斗はかなり驚いていた。

「3時間も?!早く帰ろう。送ってあげるから」
「くれるなら・・もらう」

顔が赤くなるのわ感じながらそう言うと、意斗は素直じゃないなぁ、と笑った。
そして、冷えきった私の手を彼の手が優しく包み込んでくれた。



◇◇◇



「――――――」
気が付くと、あれから・・・ベンチに座り込んでから2時間も経っていた。向こうのベンチに居た恋人たちはもう居なかった。
「・・・夢・・・。久しぶり、あの日の事を夢に見るなんて」


そう。もう3年も前の出来事。

私が意斗に会った、最後の日。
意斗はその翌日に通り魔に刺されて死んだ。



どうして、今更そんな昔の夢を見たのだろう。もうこの夢は1年前から見なくなったというのに。


どうして―――

嗚呼、そうか。きっと3年前も、こんな綺麗な月が出ていて、寒さもこのくらいで。 あの最後の日に、とても似ていたからだろう。そして、その最後の日も、意斗が来る前に唄を唄っていた。


こんなにも。こんなにもあの日と似た日があるだなんて。




「うーさぎうさぎ 何見て跳ねる 十五夜お月様見て跳ーねーるー」


私はまた一人、唄いながら家へ向かった。




fin



あとがき
過去形ばっかしじゃん。。。
ちょっとボーイッシュな女の子になってしまった。本当はもっと女の子
らしい子にしたかったのですが・・・。

大好きだった意斗が死んでしまって、悲しみを思い出す策の話でした☆









SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送